【MLB】秘めたる闘志の大エース Corey Kluber
2017年のMLBは”打”の年でした。
50本以上ホームランを打った、スタントン(MIA)とジャッジ(NYY)。ルーキーながらパワフルなスイングを見せたベリンジャー(LAD)やホスキンス(PHI)。1試合4ホーマーのジェネット(CIN)とマルティネス(ARI)。
彼ら以外にも”打”で目立った選手は数え切れないほどいます。
一方で”投”ではフライボール・レヴォリューションの影響もあり、打たせてとる技巧派の投手は軒並み苦戦し、三振を多くとるタイプの投手は成績が大幅に向上しました。
その中でも2017年はMLBの投手四天王といっても過言ではないであろう、4人の投手が活躍しました。
その4人とは、
世界最強投手、ドジャースのクレイトン・カーショー
そしてもう1人が我らがインディアンズのエース、コーリー・クルーバーです。
クルーバーは初めの3人に比べると、少し地味で華のない印象を持っている人が多いかもしれませんが、2017年は1ヶ月の離脱がありながら、素晴らしい活躍を見せました。
今回の記事ではそんなクルーバーの魅力や凄さをできるだけ多くの人に知ってもらおうという目的で書いたものです。
目次
- 基本情報
- 過去5年間の成績・タイトル
- 進化する投球スタイル
- メジャー屈指の魔球
- クルーバーの魅力
- まとめ
1.基本情報
コーリー・スコット・クルーバー
クリーヴランド・インディアンズ所属 7年目 背番号28
31歳(1986年4月10日)
193cm/98kg
右投げ右打ち
2007年ドラフト4巡目、全体134位でパドレスから指名。
2.過去5年間の成績・タイトル
【獲得タイトル・表彰】
サイ・ヤング賞2回(2014年・2017年)
最多勝(2014・2017年)
最優秀防御率(2017年)
オールスターゲーム選出(2016・2017年)
月間最優秀投手 5回
週間最優秀選手 4回
上表からわかるように勝ち星、防御率、奪三振数のようなスタンダードなスタッツでは素晴らしい数字を残しています。しかしそれだけでは彼の真の実力は判定できません。
クルーバーの真の実力がいかほどのものか簡単なセイバーメトリクスを使って考察していきます。セイバーメトリクスを使用することで、運を切り離した指標と運を考慮した指標とを組み合わせ、投手本来の実力や今後の成績のおおよその予測が可能になります。
まず、FIPを見てみましょう。FIPとは投手の力量とは無関係なインプレーの打球の結果を捨象し、与四球、被本塁打、三振を元に算出する、防御率のような指標です。FIPは実際の防御率よりも投手の能力を反映しており、今後の成績を予見するのに役立ちます。平均は4.20程度、3.50以下で良、3.20以下で優という感じです。例えば、防御率に対してFIPが高い場合、若干不運に見舞われていると言えます。
クルーバーの過去5年間のFIP2.84を上回っているのはMLBでは世界最強投手のカーショーしかいません。
さらに、WAR*1も毎年、オールスター級の数字を残しています。特にサイ・ヤング賞を受賞した2014年、2017年はMVP級の成績を残しています。
下の表の数字についても見て見ましょう。
まずは、被打率、OPS*2をMLBの平均と比較していきます。
両グラフに共通しているのはMLB平均(青)が年々上昇(悪化)しているのに対し、クルーバー(橙)は低下(良化)しているという点です。この理由は4章で考察していきます。
単純に被打率が低いということは、ヒットを打たれにくいということを意味し、OPSが低いということは、対戦打者の出塁率・長打率が低いということを意味します。
クルーバーのそれはMLB平均と比較しても突出して良いものであることがわかります。
これは言い換えれば彼が”支配力がある投手”であるということを表しています。
次はK/9、BB/9、K/BB*3を見ていきます。
この指標もFIPと同じように運要素を捨象することで、投手本来の実力を示そうというものです。K/9は三振奪取力、BB/9はコントロールの良さを表し、K/BBが高いということは投手としての完成度が高いということをよく表しています。実際、K/BBは3.50で優秀とされますが、クルーバーのキャリアK/BBは4.94。彼がいかに完成度の高い投手かということがよくわかります。
最後はRS/9、BABIPを見ていきましょう。
これらはこれまでとは違い、本質的には運の良さを表しています。
まず、RS/9は援護率、つまりどれだけ打線が点を取ってくれるかを表しています。
例えば2015年の成績を見てください。クルーバーのRS/9は通算で4.88ですが、2015年は3.32と打線の援護がありませんでした。実際、この年は9勝16敗と大きく負け越してしまいましたが、他の指標を見るとそこまで落ち込んでいるものはありません。
つまり2015年は「勝ち星には恵まれなかったが、実力がなかったわけではなく来年以降の成績の向上を見込める」年だったということがわかり、実際2016年は成績が向上しました。
BABIPも似たようなもので、インプレーの打球がヒットになった割合を表しています。投手で見ると、キャリアを通して大体.290~.300程度に収まることが計算で明らかになっているようです。クルーバーのBABIPは3年前までは標準、ここ2年は標準より低くなっています。
運に関しては、年ごとの偏りが大きいのは事実ですが、ここ2年はどちらかというと恵まれている方です。
まとめると
1.マウンド上での圧倒的な支配力を見せる
2.投手としての完成度が非常に高い
3.運も以前に比べ、味方してくれるようになった(インディアンズが強くなった)
という感じです。
様々な視点から、クルーバーがいかに凄い投手かがわかってもらえたのではないでしょうか。
3・4章では、クルーバーの一体何がすごいのかを考察していきたいと思います。
3.進化する投球スタイル
【 球種別投球割合】
【球種別急速(単位はmph)】
※ここではシンカーとスライダーにしましたが、メディアによってはシンカーを2シーム、スライダーをカーブとすることもあるので注意してください。あくまで変化の系統だと思ってください。クルーバー自身もウイニングショットはカーブかスライダーか明言していません。
この章では投球スタイルと銘打ってはいるものの、この表からもわかる通り、クルーバーの投球スタイルは少しずつ変化しています。
サイ・ヤング賞を受賞した2014年は投球の約半分がシンカーのシンカーボーラーだったのに対し、2017年はシンカーとスライダーの投球割合がほぼ同じになっています。
これはMLBが打高傾向にあることに大きく起因しています。フライを上げるためにアッパースイング気味の打者が増加すると、落ちるボールより横に曲がるボールの方が打者のバットとの接面が小さくなるので打ち取りやすくなります。
このようにトレンドに合わせて投球スタイルを少しずつ変化させているのも毎年ハイレベルな投球が続けられる大きな要因の一つです。
4. メジャー屈指の魔球
今度はクルーバーの最大の武器である2種類の魔球を見ていきましょう。
【スライダー】
約85マイル(137kmph)で映像からもわかるように鋭く右打者から逃げていきます。
また、左打者の内角へ切り込む変化でも空振りを取ることができます。
2017年のスライダーの被打率は.104、800球近く投げてホームランは2本しか打たれていません。
Pitch Value*4もここ5年ではMLBトップです。つまりクルーバーのスライダーは現在MLBで最高の質を誇るといっても過言ではありません。
(表はfangraphsより)
さらに、スライダーより球速があり、変化が小さいカッターのPitch Valueも同期間でMLBトップです。
【シンカー】
クルーバーの武器のもう1つがこのシンカーです。サイ・ヤング賞を受賞した2014年はクルーバーの投球の主役でしたが、2017年はMLB最高のスライダーを生かす引き立て役になっています。
左打者からは向かってくるように感じるボールで、フロントドアと呼ばれています。もちろんスライダーと同じように右打者にもどんどん投げていきます。
しかし、クルーバーのシンカーのPitch Valueはここ5年で実はMLBワースト2位。だからと言ってクルーバーのシンカーは価値のないわけではもちろんありません。
クルーバーの2シームは、自身の最大の武器であるスライダーと逆方向に変化します。これにより横のストライクゾーンをより広く見せることができ、さらに、コースに投げられたボールがストライクゾーンから逃げていくかストライクゾーンに食い込んでくるかを見極めなければならないため、的を絞りにくくなるという効果もあります。
4章で2017年はクルーバーのスライダーの投球割合がシンカーとほぼ同じになっている述べましたが、これによりスライダーもシンカーが相乗効果を発揮し、Pitch Valueが改善されていることがわかります。
スライダー シンカー
2013 3.1 -17.8
2014 21.5 -7.5
2015 15.5 -8.8
2016 22.7 -8.0
2017 36.8 -5.9
5.クルーバーの魅力
ここまでは数字やデータをもとにクルーバーの凄さを述べてきましたが、最後は主観的な話になります。
①常に真面目
マウンド上でもインタビューでもクルーバーは常に真面目です。試合前も常に万全の準備を行い、その姿勢はチームメイトからも尊敬されています。
シャンパンファイトのインタビューの時もチームメイトからシャンパンをかけられながらも何事もないかのように話しています。
Corey Kluber gets doused with champagne, doesn't miss a beat
②チームを最優先
2016年のプレーオフでは先発投手にけが人が続出し、主に3人でローテーションを回すことになりましたが、クルーバーは中3日にも耐えて、結果を残してくれました。
③ 冷静な表情と熱いハート
マウンド上でのクルーバーはrobotとkluberを混ぜてklubotと言われるほどに冷静です。しかし、そんな彼も大事な試合では気持ちを表に出すことがあります。2016年の地区シリーズ第2戦でピンチでレッドソックスのハンリー・ラミレスを打ち取った際に見せたガッツポーズは鳥肌ものでした。(9:40くらい)
④理想のエース像
私の理想のエース像は「奪三振能力が高く、大舞台に強いワークホース」です。クルーバーはまさにこれを体現しています。私にとってはチームの大黒柱、エースといえば彼という感じです。
6.まとめ
クルーバーはカーショーやシャーザーやセールに比べると知名度の低い投手ですが、実力はまったく引けを取っていません。MLB最高級の変化球を操り、三振も多く奪えます。さらに完投・完封能力が高く、まさに"WAR高い系投手”です。最近は少しは知名度は上がってきたものの、まだ実力に見合ってはいないような気がします。なので、この記事を読んで、クルーバーのすごさを知ってくれる人が一人でも増えれば幸いです。
追記:2017年のサイ・ヤング賞に見事輝きました!!!おめでとう!!!!